Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第5話 世界の情勢

 アレンさんに文字を少しずつ教えてもらい、それを練習する事で暇をつぶしながら日々をらしていた。

 この世界の文字は、表音ひょうおん文字もじではあるがローマ字ほど単純ではなく、英単語のつづりのような規則性のある文字体系だった。

 市の商品名のような良く使う単語のつづりを教えてもらって書き取り、少しずつ書ける単語を増やしていった。

(読み書きができるようになってくると、やっぱり本が欲しいですね。元々、私の趣味は読書だったので、切実せつじつに読書がしたくなります)

 外の世界の情報も集まってきている。

 このあたりは自由国境地帯と呼ばれていて、どの国にも所属していない。

 二千年ほど前に存在していたと言われる大陸統一国家の時代では、すでに存在していた自由国境地帯を切り開き、人類の生存圏せいぞんけんを広げていたそうだ。

 しかし、その栄光の時代もとっくの昔にぎ去ってしまっていて、今では、徐々に広がり続ける魔物の領域に分断された人の領域の国家が、各地に飛び地のように細々と存在しているらしい。

 どの国家にも所属しない地域にらすたみは自由民と呼ばれ、税金を徴収ちょうしゅうされない代わりに領主や国家に守ってもらえず、魔物や盗賊の襲撃しゅうげきから自衛する必要にせまられ、それなりにきたえられた自警団を持つようだ。

 この里から一番近い村がシユス村で、人口はこの里と同じくらいだそうだ。ただ、この里とは違って畑があるので、里よりは広いらしい。

 そこから西に十日ほど行くとリスティン王国の領土となり、境界にある都市がガルムの都市。この都市は辺境へんきょうの割に大きく、また、良質な魔力のまった魔石が比較的安価に流通しているため魔道具職人が多く住んでいて、魔道具の聖地と呼ばれているらしい。

(魔道具、こころおどるキーワードです。ぜひとも誰かに弟子入でしい りして、作り方を学ばないといけませんね)

 人種についても聞いてみた。

 ほとんどはヒム族であるが、少数ながら、アルク族と小人族と呼ばれる種族も住んでいるらしい。

 小人族と聞いてドワーフを思い出した私は、つい、テンションも高く早口はやくちでまくし立ててしまった。

「体は小さいけどがっしりとしていてひげが濃く、大酒飲みで、手先てさきが器用なのですよね!!」

 それを聞いたアレンさんは、私の勢いに押されて若干じゃっかんのけぞりながら、何を言っているんだって顔をしていた。

 その後に、ため息をきながらではあるが、小人族について教えてくれた。

「小人族は成人しても子供のような体格の種族だぞ? ひげ産毛うぶげ程度しかえないし、酒も体格にあった程度しか飲まない。ただ、体が小さいから手先てさき は器用で、装飾品なんかを作っている事が多いな」

 町に定住しているアルク族は、かつての大陸統一国家の時代の末裔まつえいだそうだ。

 その時代には文化面でも発展を見せていたため、いろいろとめずらしい品物があったらしい。そして、それにあこがれを持ってしまったアルク族の若いものもいたのだとか。

 ただ、元々少数民族だったため時代と共に混血が進み、今では、ほとんどヒム族と変わらない程度の寿命じゅみょうと、少し多いくらいの魔力を持つようになったそうだ。

 それでも、一般的なヒム族よりはかなり魔法適正が高く、優秀な魔術師になりやすい種族として認識されているらしい。

 里の外でアルク族と言えばこの種族をすらしく、私たちのような里に住むアルク族と区別する時には、町に定住している方を町アルク、里の方を森アルクとか純血じゅんけつのアルクとか言うらしい。

 また、王国は西部と南部で海に面しており、南西部の海上にある島には、島アルクと呼ばれるアルク族の里がある。

 しかし、この世界ではあまり海運業が発達していないらしく、ほとんど交流はない模様もようだ。

 アレンさんのような見た目の人種は、東のてにあるとされている帝国と呼ばれる国に多くいるらしい。

(前世の東アジアのようなところですかね? それなら、もしかしたら、そこには米や醤油しょうゆがあるかもしれませんね!)

 みたいな事を勝手に想像していて、期待している。

 まあ、期待するだけなら誰にも迷惑めいわくはかけないので、いいのではないかと考えている。